作品梗概
独歩は最初の妻・信子と協議離婚し、渋谷村(現東京都渋谷区)に移り住み、作家活動を再開した。
当時はまだ自然豊かな武蔵野の林は、楢の木の林であったそうで、そこを散策することを日課としていた彼は、「林はまだ夏の緑のそのままでありながら空模様が夏と全く変わってきて雨雲の南風につれて武蔵野の空低くしきりに雨を送るその晴間には日の光水気を帯びてかなたの林に落ちこなたの杜にかがやく」と書いている。
ただ、林の木々のみではなく、空のさま、風の音など、視覚的にも聴覚的にも武蔵野の林とその周辺の美しさを叙情的に描いている。
幼い頃から自然と接することも多かった彼は、その心ひかれる自然を描写するに当たっては、ワーズワースやツルゲーネフの自然観察態度に強く影響を受けたとも記している。
詩情に満ちた自然観察で、武蔵野の林間の美をあまねく知らしめた不朽の名作。
●国木田独歩(クニキダ・ドッポ) (1871〜1908)
小説家、詩人。 本名、国木田哲夫。
千葉県銚子に生まれる。
明治20年、東京専門学校英語普通科に入学。
明治24年、キリスト教に入信。
明治29年頃より、田山花袋や柳田国男らと交友を深め、詩や小説を発表しはじめる。
「源おぢ」(明治30)、「忘れえぬ人々」(明治31)などで浪漫的抒情文学の新風を開き、「武蔵野」(明治31)で自然描写の新境地を開拓。
近代日本文学において初めて主知的な短篇スタイルを完成させ、志賀直哉や芥川龍之介をはじめ、後世に大きな影響を与えた。
明治37年、浪漫的抒情の極致を示す「春の鳥」を発表したが、晩年には抒情を離れ、現実社会の窮乏を直視した「竹の木戸」(明治41)などを発表。
自然主義作家として高く評価された。
明治41年6月23日、肺結核により死去。享年36歳。
代表作は「武蔵野」、「忘れえぬ人々」、「牛肉と馬鈴薯」、「春の鳥」、「竹の木戸」など。
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